HOME > 連結納税制度がグループ通算制度に移行されます > 第1章 グループ通算制度について > 9.グループ通算制度の税効果会計

9.グループ通算制度の税効果会計

(1)税効果会計とは

税効果会計は企業会計上と課税所得計算上の資産・負債の額に相違がある場合に、法人税等の額を適切に期間配分することにより税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続きです。(税効果会計基準 第一)

税効果に関する具体的な会計処理は次の基準に定められています。(以下これらをまとめて「税効果会計基準」といいます。)

税効果会計基準
・「税効果会計に係る会計基準」及び同注解
・企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」
・企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」

(2)グループ通算制度における税効果会計

グループ通算制度には損益通算等の特有の考え方があることから、これらに対応した「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第42号)が設けられています。

グループ通算制度を適用する企業の税効果会計については、この基準に従って処理します。ここに定めがないものについては「税効果会計基準」に従います。
「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」に規定される税効果に関する主な項目は以下の通りです。

実務対応報告第42号 主な項目
・「法人税・地方法人税」に係る繰延税金資産の回収可能性の判断 ※
・繰延税金資産・繰延税金負債の計算に用いる税率
・適用時、加入時及び離脱時の取扱い 等

※ グループ通算制度の対象とされていない「住民税及び事業税」については「税効果会計基準」に従います。

(3)個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断

ここでは、「法人税・地方法人税」に係る繰延税金資産の回収可能性の判断について確認しましょう。
繰延税金資産の回収可能性は以下の2つの観点から検討します。

  • ①スケジューリング(将来の課税所得に基づく回収可能性)
  • ②企業分類(過去の課税所得の発生状況による回収可能性)

個別財務諸表においては、他の通算企業の所得が自社の回収可能性に影響を与えることが特徴です。

①スケジューリングによる回収可能性の判断

差異の種類 グループ通算制度を
適用する場合の留意点
減算一時差異/
繰越欠損金
グループ通算制度を適用した場合の将来の税金計算により、スケジューリングによる回収可能額を計算します。
自社単独の将来の通算前所得で回収できない場合でも、損益通算による益金算入額(つまり、他の通算会社の所得)があれば回収可能と判断されます。
繰越欠損金は将来の税金計算における解消額が回収可能と判断されます。

②企業分類による回収可能性の判断

差異の種類 グループ通算制度を適用する場合の留意点
減算一時差異 繰延税金資産の回収可能性の判断について、通算グループ全体の分類と通算会社の分類のいずれか上位の分類を適用します。
特定繰越欠損金以外の欠損金 特定繰越欠損金以外の繰越欠損金については通算グループ全体の分類に応じた判断を行います。
特定繰越欠損金 特定繰越欠損金については、通算グループ全体の分類と当該通算会社の分類のいずれか下位の分類を適用します。
グループ通算における企業分類の判定(個別財務諸表)
企業分類の判定 適用される企業分類の決定
通算グループ全体 各通算会社 将来減算一時差異に係る分類
通算グループ全体の判定による分類 各通算会社の判定による分類 より上位の分類が優先
グループ通算における企業分類の判定(個別財務諸表)
企業分類の判定 適用される企業分類の決定
通算グループ全体 各通算会社 将来減算一時差異に係る分類
通算グループ全体の判定による分類 各通算会社の判定による分類 より上位の分類が優先

<参考>企業分類の要件(企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」)

分類 分類の要件
分類1 次の要件をいずれも満たす企業は(分類1)に該当します。
  ①  過去(3年)および当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。
  ②  当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。
分類2 次の要件をいずれも満たす企業は(分類2)に該当します。
  ①  過去(3年)および当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。
  ②  当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。
  ③  過去(3年)および当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。
分類3 (分類4)の②または③の要件を満たす場合を除き、次の要件をいずれも満たす企業は(分類3)に該当します。
  ①  過去(3年)および当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している。
  ②  過去(3年)および当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。
分類4 次のいずれかの要件を満たし、かつ、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業は(分類4)に該当します。
  ①  過去(3年)および当期において、重要な税務上の欠損金が生じている。
  ②  過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある。
  ③  当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。
分類5 次の要件をいずれも満たす企業は(分類5)に該当します。
  ①  過去(3年)および当期のすべての事業年度において、重要な税務上の欠損金が生じている。
  ②  翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる。

(4)連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断

個別財務諸表と同様、①スケジューリングと②企業分類 によって繰延税金資産の回収可能性を判断します。

グループ全体を1つの単位として判断することがポイントです。

  グループ通算制度を
適用する場合の留意点
①スケジューリング 通算会社の「将来一時差異」合計額について、通算グループ全体のスケジューリングによって回収可能性を検討します。
なお、繰越欠損金については個別財務諸表と同様のスケジューリングとなるため差異は生じません。
②企業分類※ 将来減算一時差異については、通算グループ全体の分類が適用されます。特定欠損金及び特定欠損金以外の欠損金に係る分類は個別財務と変わりません。

※ 通算会社で発生したこれまでの一時差異等や課税所得、税務上の欠損金等はその合計額を通算グループ全体で生じるものとして取り扱い、通算グループ全体での分類を判断します。

なお、個別財務諸表で計上した繰延税金資産の合計額と連結財務諸表の繰延税金資産との差額は連結上修正します。

執筆協力:朝日税理士法人

前のページに戻る

このページのトップへ