ITツールの導入にかかった費用について、負担をサポートするための制度として「IT導入補助金」が挙げられます。IT導入補助金は、法人だけでなく個人事業主も申請できることをご存じでしょうか。
ここでは、IT導入補助金の種類や申請するための条件、申請方法のほか、フリーランスなどの個人事業主が申請する際の注意点などについてもわかりやすく解説します。
目次
IT導入補助金とは、中小企業や小規模事業者がITツールを導入した際の費用を補助する制度のことです。中小企業生産性革命推進事業と呼ばれる制度の中で、複数用意されている補助金のひとつに位置づけられています。
IT導入補助金は、2024年11月時点で、2025年以降も継続することが決定しています。もっとも、(記事作成時点において)2025年以降の制度の詳細は判明していないため、本記事で取り上げているのは、2024年に実施された制度の内容です。
IT導入補助金と一口にいっても、導入するツールの種類などによって申請できる枠が異なります。よって、補助金の種類や対象、申請するための条件、申請方法を理解しておくことが重要です。
IT補助金の対象となっているのは中小企業および小規模事業者で、法人・個人事業主の区別はないため、個人事業主もIT導入補助金を申請することができます。対象となる小規模事業者の条件は、下記のとおりです。
<IT導入補助金を申請できる小規模事業者の条件>
このように、さまざまな個人事業主がIT導入補助金の対象となることがわかります。ITツールなどを導入した際には、IT導入補助金の活用を検討するのがおすすめです。
IT導入補助金には、種類(申請枠)があり、それぞれで対象となるツール、補助率・補助額が異なります。下記のような申請枠が設けられていることや、申請枠ごとの申請条件を把握しておくことが重要です。
通常枠とは、自社の課題を解決する目的でITツールを導入し、業務効率化や売上伸長を図る取り組みをサポートするための申請枠です。事業のデジタル化を実現するために、ソフトウェアやシステムなどを導入した場合が対象となります。また、ソフトウェアなどの導入時に付加したオプションや、導入コンサルティング・保守サポートといった役務に関しても通常枠による補助の対象です。
通常枠では、以下のうち1種類以上の業務プロセスに対応したソフトウェアなどが補助の対象となります。
■通常枠のITツールが対応していなければならない業務プロセスの条件
種別 | プロセス | |
---|---|---|
業務プロセス | 共通プロセス | 顧客対応・販売支援 |
決済・債権債務・資金回収管理 | ||
供給・在庫・物流 | ||
会計・財務・経営 | ||
総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情報システム | ||
業務特化型プロセス | そのほかの業務固有のプロセス | |
汎用プロセス(単体での使用は不可) | 汎用・自動化・分析ツール |
ITツールの導入にかかった費用のうちどの程度の割合が補助の対象となるかを示す補助率については、いずれの場合でも2分の1以内です。補助額は、上表のうち1プロセス以上に対応する製品を導入する場合は5万円以上150万円未満、4プロセス以上の場合は150万円以上450万円以下と定められています。
インボイス枠(インボイス対応類型)とは、インボイス制度に対応するための会計ソフトや受発注ソフト、決済ソフト、パソコン・ハードウェアなどの導入に伴う費用をサポートするための申請枠のことです。ソフトウェア導入にかかった費用のほか、付帯するオプションや導入コンサルティング・保守サポートといった役務についても補助の対象となります。ハードウェアに関しては、パソコンやタブレットをはじめ、プリンターや複合機、POSレジ、モバイルPOSレジ、券売機なども補助の対象です。
インボイス枠(インボイス対応類型)では、以下のように対象となるツールの種類、補助率、補助額が定められています。
■インボイス枠(インボイス対応類型)の対象となるツールの種類・補助率・補助額
対象となるツールの種類 | 補助率 | 補助額 |
---|---|---|
会計・受発注・決済のうち1機能以上を有するソフトウェア |
中小企業:3/4以内 小規模事業者:4/5以内 |
50万円以下 |
会計・受発注・決済のうち2機能以上を有するソフトウェア |
|
50万超 350万円 |
パソコン・タブレットなど | 1/2以内 | 10万円以下 |
レジ・券売機など | 1/2以内 | 20万円以下 |
インボイス枠(電子取引類型)とは、インボイス制度に対応した受発注システムを、商流単位で導入した際の費用をサポートするための申請枠のことです。クラウド型の受発注システムを導入した場合に、最大2年分の利用料が対象となります。
補助率に関しては、中小企業・小規模事業者などの場合は3分の2以内、そのほかの事業者(中小企業・小規模事業者と受発注の取引を行っている、大企業を含む事業者)の場合は2分の1以内です。補助額の上限は350万円で、下限は設けられていません。少額になりやすいクラウド型システムの利用料にも活用しやすい制度となっています。
セキュリティ対策推進枠とは、サイバー攻撃の増加に伴う潜在的なリスクに対処する目的で講じられる施策をサポートするための申請枠のことです。情報処理推進機構(IPA)が公表している「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されており、かつIT導入支援事業者が提供していて、さらに事前にIT導入補助金の事務局に登録されたサービスが対象となります。補助の対象となるのは、ITツールの導入費用およびサービス利用料の最大2年分です。
補助率は2分の1以内で、補助額は5万円以上100万円以下と定められています。例えば、240万円のセキュリティシステムを導入した場合、導入費用の2分の1に相当するのは120万円ですが、補助額の上限が100万円であることから、実際に補助対象となるのは100万円です。
複数社連携IT導入枠とは、サプライチェーンや商業集積地において、複数社が連携してITツールを導入するケースを想定した枠のことです。具体的には、下記に挙げるような事業体が補助対象となります。
<複数社連携IT導入枠の補助対象者>
また、複数社連携IT導入枠では、下記のような補助率、補助額が設定されています。
■複数社連携IT導入枠の補助率・補助額
補助対象 | 補助率 | 補助額 | ||
---|---|---|---|---|
基盤導入経費 | ソフトウェア |
中小企業:3/4以内 小規模事業者:4/5以内
|
50万円以下×構成員数 | 基板導入経費・消費動向分析経費の合計額で3,000万円が上限 |
2/3以内
|
50万超350万円×構成員数 | |||
ハードウェア | 1/2以内 |
|
||
消費動向などの分析経費 | 2/3以内 | 50万円以下×構成員数 | ||
そのほかの経費 | 2/3以内 | 200万円以下 |
IT導入補助金を申請する際には、一定の手順があります。基本的な流れは下記のとおりです。
■IT導入補助金を申請する際の流れ
IT導入補助金を活用したい場合、最初にIT導入補助金の制度内容を確認した上で、導入するツールを選定する必要があります。IT導入補助金は一般的な補助金・助成金と同様に後払いです。導入したツールが制度の対象外だと後で判明することのないよう、十分に注意しなければなりません。
IT導入補助金を申請するには、登録されているIT導入支援事業者を確認した上で、それらの事業者が提供しているITツールを選定する必要があります。不明点があれば、IT導入支援事業者に問い合わせて補助金の対象となるツールについて相談するのもひとつの方法です。
導入するITツールを選定したら、次に申請の準備を進めます。必要書類の準備のほか、GビズIDプライムアカウントの登録や「SECURITY ACTION」の宣言などを完了させておかなくてはなりません。GビズIDプライムのアカウント取得の完了には、場合によっては1週間以上の期間がかかるため、早めに登録申請をしておくことが必要です。
GビズIDプライムのアカウントの取得手続きを郵送で行う際に準備しなければならないのは、パソコンのほかには、SMSを受信できる携帯電話、印鑑証明書、登録印です。これらを用意した上で、デジタル庁が提供する「GビズIDプライム書類郵送申請 メールアドレス登録」ページより申請手続きを進めましょう。
また、SECURITY ACTIONとは、事業者がみずから情報セキュリティ対策に取り組むことを宣言する制度です。1つ星・2つ星の2段階の取り組み目標が用意されており、IT導入補助金を申請するにはいずれかを宣言している必要があります。
ほかにも、通常枠の申請には「みらデジ経営チェック」の実施も必要になるため、事前に対応しておいてください。
GビズIDプライムアカウントの登録やSECURITY ACTIONの自己宣言といった準備が完了したら、IT導入支援事業者から招待メールを受け取り、「申請マイページ」にログインします。ログインしたら、必要事項を入力し、IT導入補助金の申請を行いましょう。SMS認証による本人確認が行われ、認証が完了すれば申請手続きは終了です。
申請後は事務局にて審査が実施されます。審査を通過し、事務局から交付決定の通知が届くまでの期間は、ITツールの購入や契約は控えてください。交付決定前の取引に関しては、IT導入補助金の交付対象になりません。あくまでも「申請→審査→交付決定→契約・発注」の順序を遵守することが重要です。
IT導入補助金の交付決定後、ITツールの導入や運用を開始します。実際に補助金額が確定して交付されるのは、事業完了後に報告書を提出し、事務局が審査を実施した後です。したがって、ITツールなどの購入や契約に関する支払関係の書類は大切に保管しておく必要があります。請求書や領収書を紛失することのないよう、十分に注意してください。
補助の対象となった事業を実施したら、申請マイページより、事業を実施した実績を報告します。補助金受取口座の入力や、各種必要書類の添付などに対応して交付申請を完了させましょう。事務局での審査が完了すると補助金額が確定し、指定した口座に補助金が交付されます。
なお、補助金交付後も事業の実施効果について報告が必要です。実施効果の報告時期や頻度は申請枠ごとに異なるため、事前に確認した上で漏れのないよう報告しなければなりません。
フリーランスなどの個人事業主の方が補助金を申請する際、どのような点に注意しておく必要があるのでしょうか。特に注意しておきたいポイントとしては、下記の2点が挙げられます。
個人事業主がIT導入補助金を申請する場合、正確な情報を収集するように心がけなければなりません。申請する補助金の制度内容や申請方法は自身で調べることになりますが、IT導入補助金は毎年制度が変わる可能性があるため、最新の正確な情報を収集することが重要です。対象となるツールや必要書類に見落としや事実誤認が生じることのないよう、正確な情報を把握しましょう。
2024年のIT導入補助金には5つの申請枠が設けられており、それぞれ対象となるITツールやその導入目的が異なります。要件を満たしていない場合、補助金を申請したとしても却下されることになるため、要件に適合しているか十分に確認しておかなくてはなりません。
また、IT導入補助金の対象となるツールかどうかも十分に確認しておく必要があります。「IT導入支援事業者として登録済みの事業者であるか」「ツールの導入目的や用途が補助金の趣旨に適合しているか」などを慎重に判断することが重要です。判断に迷う場合には、IT導入支援事業者に問い合わせ、補助金の対象となるツールであるかどうかを確認しておくのが得策です。
IT導入補助金の公募スケジュールは、申請枠ごとに異なる点にも注意が必要です。公募期間を過ぎてから申請した場合、申請そのものを受け付けてもらえません。2024年に関しては、下記のように複数回の公募スケジュールが定められていました。
<申請枠ごとの2024年の公募スケジュールの回数>
いずれの申請枠でも最終回の締切り・交付決定日・事業実施期間・事業実績報告期限は下記のとおりです。
<IT導入補助金の最終下位のスケジュール>
中小企業生産性革命推進事業の補助金には、IT導入補助金のほかにもさまざまな補助金が用意されています。主な補助金の例は、以下のとおりです。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業(ものづくり補助金)とは、生産性向上に資する革新的なサービスの開発や、生産プロセスの改善につながる設備投資を支援する補助金のことです。この補助金は、中小企業庁と中小企業基盤整備機構によって制度化されました。
2024年に実施されたものづくり補助金では、省力化(オーダーメイド)枠、製品・サービス高付加価値化枠、グローバル枠の3枠があり、さらに製品・サービス高付加価値化枠は、通常類型と成長分野進出類型(DX・GX)に分かれています。補助率や補助額は、下記のように定められています。
■ものづくり補助金の補助率・補助額
枠・類型 | 補助対象 | 補助率 | 補助額上限 |
---|---|---|---|
省力化(オーダーメイド)枠 | 革新的な生産プロセス、サービス提供方法の効率化・高度化を図る取り組みに必要な設備投資、システム投資など |
|
750万~ 8,000万円 |
製品・サービス高付加価値化枠 (通常類型) |
革新的な製品・サービス開発の取り組みに必要な設備投資、システム投資など |
|
750万~ 1,250万円 |
製品・サービス高付加価値化枠 (成長分野進出類型) |
革新的な製品・サービス開発の取り組みのうち、DXやGXに資する事業に必要な設備投資、システム投資など | 2/3 | 1,000万~ 2,500万円 |
グローバル枠 | 海外事業を実施し、国内の生産性を高める取り組みに必要な設備投資、システム投資など |
|
3,000万円以下 |
小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)とは、小規模事業者の販路開拓や業務効率化の取り組みを支援するための、全国商工会連合会が運営する補助金です。持続化補助金では、常時使用する従業員数が商業や宿泊業・娯楽業を除くサービス業では5人以下、宿泊業・娯楽業・製造業やその他の業種に関しては20人以下の法人や個人事業主が対象となります。
2024年に実施された持続化補助金では、大きく分けて一般型と災害支援枠の2種類がありましたが、一般枠はさらに5種類の申請枠に分かれています。一般型の申請枠ごとの対象者や補助率・補助額は下記のとおりです。
■持続化補助金(一般型)の申請枠ごとの対象者
申請枠の種類 | 対象者 |
---|---|
通常枠 | 経営計画にもとづき、販路開拓などに取り組む事業者 |
賃金引き上げ枠 | 販路開拓の取り組みを行っていることに加え、事業所の最低賃金を「地域別最低賃金+50円以上」にした事業者 |
卒業枠 | 雇用を拡大し、小規模事業者の従業員数を超えて事業規模を拡大する事業者 |
後継者支援枠 | アトツギ甲子園においてファイナリストなどに選ばれた事業者 |
創業枠 | 産業競争力強化法にもとづく「特定創業支援等事業の支援」を受けて、販路開拓に取り組む創業をした事業者 |
■持続化補助金(一般型)の補助率・補助額
申請枠の種類 | 補助率 | 補助額上限 | インボイス特例 |
---|---|---|---|
通常枠 | 2/3 | 50万円 | 要件を満たす場合は補助上限額に50万円を上乗せ |
賃金引き上げ枠 |
2/3
|
200万円 | |
卒業枠 | 2/3 | 200万円 | |
後継者支援枠 | 2/3 | 200万円 | |
創業枠 | 2/3 | 200万円 |
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継にかかる費用や事業再編・事業統合の取り組みにかかる費用の一部を補助する制度のことです。2024年に実施された事業承継・引継ぎ補助金では、経営革新枠、専門家活用枠、廃業・再チャレンジ枠の3つの申請枠がありました。それぞれの対象事業者・補助率・補助上限は下記のとおりです。
■事業承継・引継ぎ補助金の申請枠ごとの対象者・補助率・補助額上限
申請枠の種類 | 対象者 | 補助率 | 補助額上限 |
---|---|---|---|
経営革新枠 | 経営資源引継ぎ型創業や事業承継、M&Aを対象期間内に行った者(予定も含む) |
1/2以内
|
600万~800万円
|
専門家活用枠 | 経営資源を譲り渡す、または譲り受ける者 |
|
600万円 |
廃業・再チャレンジ枠 | 事業承継やM&Aの検討・実施に伴い、廃業などを行う者 |
2/3以内
|
150万円
|
IT導入補助金は、法人だけでなく個人事業主も活用できる制度です。ただし、補助金の申請枠ごとに対象となるツールや補助率・補助額が異なる点に注意しなければなりません。また、スケジュールは申請枠によって異なるため、公募期間を確認した上で締切日までに申請することが大切です。IT導入補助金をはじめとする各種補助金を活用して、事業の効率化や活性化にお役立てください。
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監修者
石割由紀人(石割公認会計士事務所)
公認会計士・税理士、資本政策コンサルタント。PwC監査法人・税理士法人にて監査、株式上場支援、税務業務に従事し、外資系通信スタートアップのCFOや、大手ベンチャーキャピタル、上場会社役員などを経て、スタートアップ支援に特化した「Gemstone税理士法人」を設立し、運営している。