法人税を申告する際には、決算書以外にもさまざまな書類を添付する必要があります。勘定科目内訳明細書もそのうちの1つです。では、勘定科目内訳明細書とはどのような書類で、何を記載すればいいのでしょうか。
ここでは、勘定科目内訳明細書の基本的な書き方や作成時の注意点についてわかりやすく解説します。
目次
勘定科目内訳明細書とは、貸借対照表や損益計算書の内訳を示した書類のことです。勘定科目内訳明細書は、税務署が会社の取引の実態や財務状況を把握するために作成します。16種類の勘定科目ごとに内訳書がありますが、必ずしも16種類すべてを作成しなければならないわけではありません。該当するものがあれば、必要に応じて作成し、提出します。
法人税の申告時には、勘定科目内訳明細書を含めた下記の書類を、原則として決算日の翌日から2ヵ月以内に所轄の税務署へ提出しなければなりません。
<法人税申告時の主な提出書類>
勘定科目内訳明細書を記載する際は、記載すべき事項と書き方のポイントを押さえておくことが重要です。16種類の勘定科目内訳明細書のそれぞれについて、記載内容を解説します。
預貯金等の内訳書には、下記のように期末時点で企業が保有している預貯金に関する金融機関名や口座番号、期末残高などを記載します。
<預貯金等の内訳書に記載する事項>
取引金融機関別、かつ預貯金の種類別に記載する必要がある点に注意が必要です。なお、名義人が法人名と異なる場合には、摘要欄に名義人を別途記入しておく必要があります。また、外貨預金の場合は、摘要欄に外貨ベースの金額を記載してください。
■預貯金等の内訳書の書式見本
受取手形の内訳書には、期末時点で保有している受取手形について、下記のような項目を記載します。
<受取手形の内訳書に記載する事項>
受取手形の総額が100万円以上の取引先については取引先別に記載し、100万円未満の取引先に関しては一括して記載します。また、100万円以上の手形の口数が5口未満であれば、期末残高が大きい順に5口程度を記載しましょう。なお、割引手形については割引銀行ごとに別途記載しなければなりません。
■受取手形の内訳書の書式見本
売掛金(未収入金)の内訳書には、売掛金または未収入金に関する下記のような項目を記載します。
<売掛金(未収入金)の内訳書に記載する事項>
科目欄には売掛金か未収入金のいずれかを記載しますが、両方がある場合には科目別の集計欄を設けなければなりません。相手先別期末残高が50万円以上の売掛金などが5口以上ある場合には、該当する売掛金などを個別に記載した上で、50万円未満の相手先別期末残高をまとめて記載します。50万円以上の売掛金などが5口未満の場合には、多額な売掛金または未収入金を5口程度記載し、そのほかは一括して記載しても差し支えありません。なお、未収入金の場合は、摘要欄に取引内容を記載してください。
■売掛金(未収入金)の内訳書の書式見本
仮払金や貸付金、受取利息に関する内訳書は同一の書式内にあり、仮払金(前渡金)の内訳書と貸付金及び受取利息の内訳書に分かれていて、それぞれ下記のような項目を記載します。
<仮払金(前渡金)の内訳書に記載する事項>
<貸付金及び受取利息の内訳書に記載する事項>
仮払金や前払金、貸付金、受取利息のいずれに関しても、相手先別の期末残高が50万円以上の場合は個別に記載する必要があります。そのほかについてはまとめて記載して差し支えありません。なお、仮払金など相手先や貸付金の貸付先が役員・株主・会社関係者の場合、残高が50万円未満であっても個別に記載する必要があります。
また、未収利息を含めた期中の受取利息額が3万円以上の貸付金は、期末現在高の有無を問わず個別に記載しなければなりません。
■仮払金(前渡金)の内訳書、貸付金及び受取利息の内訳書の書式見本
棚卸資産の内訳書には、棚卸資産に関する下記のような情報を記載します。
<棚卸資産の内訳書に記載する事項>
棚卸資産の内訳書は、商品ごとの残高の明細を示すために作成します。棚卸資産とは、商品・製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵品、作業くず、副産物などのことです。工事業の場合には作業中の半成工事も含まれます。なお、評価換えを行った場合、摘要欄に評価額の増減を記載します。
■棚卸資産の内訳書の書式見本
有価証券の内訳書は、下記のような有価証券の明細を記載し、科目ごと・銘柄ごとの残高を明らかにするための書類です。
<有価証券の内訳書に記載する事項>
期末に保有している有価証券や、期中に変動があった有価証券について、保有目的の区分別に内訳を記載します。保有目的に記載するのは「売買目的」「満期保有目的」「その他の目的」の3種類のいずれかです。期末残高が0の場合も、期中に売却や購入、増資の払い込み、評価換えなどをしているようなら、記載しなければなりません。
■有価証券の内訳書の書式見本
固定資産(土地、土地の上に存する権利及び建物に限る。)の内訳書は、期末に保有する固定資産および、期中に変動のあった固定資産の期末残高および内訳、変動した理由を示すために、下記のような事項を記載する書類です。
<固定資産の内訳書に記載する事項>
対象となる固定資産は、内訳書の名称のとおり、土地および土地の上に存する権利と建物に限られます。期末現在高がゼロの場合にも、期中に売却や購入、評価換えなどをしているようであれば、記載が必要です。
■固定資産の内訳書の書式見本
支払手形の内訳書は、期末時点で支払いが済んでいない支払手形の内訳や、支払先などを明確にするために、下記の項目を記載する書類です。
<支払手形の内訳書に記載する事項>
同一の取引先に関して、支払手形の総額が100万円以上の場合には個別に記載する必要があります。そのほかの取引先については、まとめて記載して差し支えありません。
■支払手形の内訳書の書式見本
買掛金(未払金・未払費用)の内訳書は、期末における買掛金の状況について、下記の事項を記載する書類です。
<買掛金(未払金・未払費用)の内訳書に記載する事項>
科目には「買掛金」「未払金」「未払費用」のいずれかを記載します。複数の科目がある場合には、科目ごとに集計欄を設ける必要があります。なお、期末残高が50万円以上の相手先については個別に記載しなければなりません。未払金の場合は、摘要欄に取引内容も記載してください。
また、配当金または役員賞与に関する未払いについては、別途設けられている欄に内訳を記載する必要があります。
■買掛金(未払金・未払費用)の内訳書の書式見本
仮受金(前受金・預り金)の内訳書は、仮受金や預り金の期末残高の内訳を示すための書類で、仮受金(前受金・預り金)の内訳書の中には、源泉所得税預り金の内訳の記載欄が設けられていて、それぞれ下記の事項を記載しなければなりません。
<仮受金の内訳書(前受金・預り金)に記載する事項>
科目欄には、「仮受金」「前受金」「預り金」のいずれかの記入が必要です。仮受金、前受金、預り金のいずれの場合も、相手先別の期末残高が50万円以上の場合は個別に記載する必要があります。
<源泉所得税預り金の内訳に記載する事項>
源泉所得税に関しては、相手先ごとの内訳だけでなく、別途設けられた欄に所得の種類などを記載しなければなりません。その場合、相手先ごとの内訳の摘要欄には、「源泉所得税預り金」と記載します。本来納付すべき金額が未納になっていないかを明確にする必要があるため、詳細な内訳の記載が求められます。
■仮受金(前受金・預り金)の内訳書の書式見本
借入金及び支払利子の内訳書は、借入金の借入先や利息について下記のような事項を記載し、借入金の状況を明らかにするための書類です。
<借入金及び支払利子の内訳書に記載する事項>
借入先別期末現在高が50万円以上の場合、借入先ごとの個別記載が必要です。借入先ごとの期末現在高が50万円未満であればまとめて記載できますが、借入先が役員・株主・関係会社の場合は、期末現在高を問わず個別に記載する必要があります。同様に、未払利子を含めた期中の支払利子額が3万円以上となっている場合も、個別に記入しなければなりません。
■借入金及び支払利子の内訳書の書式見本
土地の売上高等の内訳書は、不動産販売や不動産仲介によって受け取った売上高について、下記の事項を記載する書類です。
<土地の売上高等の内訳書に記載する事項>
記載順は、取引金額の多い順に記載します。区分欄には、「売上」「仲介手数料」の区分を記入してください。記載口数が多い場合には、売上金額が大きい順に20口のみ記載するだけでも差し支えありません。
■土地の売上高等の内訳書の書式見本
売上高等の事業所別内訳書は、各事業所の実在性を示すために、下記の事項を記載する書類です。
<売上高等の事業所別内訳書に記載する事項>
期中に開設・廃止した事業所に関しては、摘要欄にその旨とともに年月日を記載します。売上高や期末棚卸高の合計が、損益計算書に記載した金額と一致しているか確認することが重要です。
■売上高等の事業所別内訳書の書式見本
役員給与等の内訳書は、役員ごとの報酬内訳や、人件費の総額など、下記の項目を記載する書類です。
<役員給与等の内訳書に記載する事項>
最上段には代表者分を記載しますが、ほかの役員の記載順は任意で差し支えありません。役員給与を損金計上する場合には、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかの要件を満たしている必要がありますが、その内訳も記載します。また、人件費の総額欄には、総額のうち代表者とその家族分の合計額も記載しなければなりません。
■役員給与等の内訳書の書式見本
地代家賃等の内訳書は、期中に支払った地代家賃などについて、所在地や貸主といった情報を明らかにするための書類です。地代家賃の内訳欄と権利金等の期中支払の内訳欄が設けられていて、加えて、工業所有権等の使用料の内訳書も、同じ書式の中に別途設けられています。それぞれ、下記のような項目を記載します。
<地代家賃等の内訳書に記載する事項>
<工業所有権等の使用料の内訳書に記載する事項>
工業所有権等の使用料の内訳書の名称欄には、特許権や実用新案権、意匠権、商標権などの名称を記入してください。
■地代家賃等の内訳書、工業所有権等の使用料の書式見本
雑益、雑損失等の内訳書は、雑収入、雑損失、固定資産売却益など、特別に生じた損益や雑益に関する下記のような明細を記載する書類です。
<雑益、雑損失の内訳書に記載する事項>
これらの項目を、雑益と雑損失のそれぞれの欄に記載します。記載する必要があるのは、相手先別の金額が10万円以上の雑益や雑損失です。雑益の一例として、税金の還付金などが挙げられますが、税金の還付金に関しては期末現在高が10万円未満でも個別に記載する必要があります。土地の売却益・売却損のうち、「固定資産(土地、土地の上に存する権利及び建物に限る。)の内訳書」に記載済みの項目については、この内訳書への記載は不要です。
■雑益、雑損失等の使用料の書式見本
勘定科目内訳明細書に記載する期末現在高は、貸借対照表や損益計算書の残高と一致させなければならない点に注意が必要です。税務調査が入る理由にもなりえることから、残高が一致しているかどうかを十分に確認してください。
期末現在高の不一致が発生する原因のひとつとして、転記ミスが挙げられます。勘定科目内訳明細書は、場合によっては10種類以上もの書類の作成が必要になるため、手作業で入力していると、ヒューマンエラーが発生しがちです。会計ソフトや税務申告ソフトを活用すれば、各種帳票のデータをインポートして転記する機能などを活用できます。転記ミスを防ぐためにも、勘定科目内訳明細書を作成する際には会計ソフトや税務申告ソフトを活用するのがおすすめです。
勘定科目内訳明細書に記載すべき事項は、2018年度の税制改正において記載省略基準・記載単位の柔軟化と記入欄の削除・変更が行われています。記載量が多くなる傾向がある受取手形や売掛金などの勘定科目を対象に、記載すべき件数が100件を超える場合には、下記のいずれかの処理が認められるようになりました。
<記載省略基準・記載単位の柔軟化の内容>
■記載件数・記載単位の柔軟化のイメージ
また、記載欄の削除・変更については、下記の修正が行われています。
<記載内容の簡素化の主な内容>
勘定科目内訳書については、インボイス制度の導入に伴い、様式が変更された部分があります。2024年3月1日以後に終了する事業年度より、一部の内訳明細書に登録番号(法人番号)を記載する欄が追加されました。登録番号の記載欄が追加された勘定科目内訳明細書は、下記のとおりです。
<登録番号の記載欄が追加された勘定科目内訳明細書の一覧>
なお、登録番号または法人番号を記載すれば名称や所在地の記載は省略できます。
勘定科目内訳明細書は、法人の取引実態や財務状況を申告するための重要な書類です。一方で、勘定科目内訳明細書には16もの種類があることに加え、それぞれの内訳明細書ごとに記載内容が異なります。記載ミスを防ぐためにも、ツールを活用しましょう。
申告書作成ソフト「達人シリーズ」は、法人税の申告に必要な書類の正確かつ効率的な作成をサポートするツールです。勘定科目内訳明細書についても、「内訳概況書の達人」を活用することでスムーズに作成できます。「内訳概況書の達人」であれば、項目単位で並び替え、合計金額を表示する小計設定、設定金額以下の明細をまとめて表示する集計設定など、多彩な編集機能を利用して思いどおりの明細書を作成可能です。
また、一度入力した明細行は翌年度以降保持されるため、差分入力だけの簡単な操作で明細書が作成できます。正確かつ効率的に勘定科目内訳明細書を作成したい事業者様は、ぜひ「達人シリーズ」をご活用ください。
監修者
石割由紀人(石割公認会計士事務所)
公認会計士・税理士、資本政策コンサルタント。PwC監査法人・税理士法人にて監査、株式上場支援、税務業務に従事し、外資系通信スタートアップのCFOや、大手ベンチャーキャピタル、上場会社役員などを経て、スタートアップ支援に特化した「Gemstone税理士法人」を設立し、運営している。