法人にとって利益が出ていることは歓迎すべき状況ですが、法人税の納税額が増加することにも注意しなければなりません。事業の安定的な継続のために、利益が出た際は適切な節税対策を実践したい経営者の方も多いのではないでしょうか。
ここでは、法人の節税対策におすすめの方法と、節税対策に取り組む際の注意点についてわかりやすく解説します。
法人税とは、法人が事業を行って得た所得に対して課される税金のことです。狭い意味では、国税としての法人税を指す言葉ですが、企業が納めるべき税金には、ほかにも地方税である法人住民税や法人事業税があります。法人税・法人住民税・法人事業税をまとめて、法人税等と呼ばれることもあります。いずれも、事業年度終了日の翌日から2ヵ月以内に税務署へ申告・納付しなければなりません。
節税とは、法律で定められたルールに則って税負担を軽減することを指します。ルールに従わず税負担を不正に減らす行為は脱税と呼ばれ、節税とは根本的に異なる点に注意が必要です。
節税の基本的な考え方は、損金を増やして所得を圧縮することといえます。法人税は、「売上などで構成される益金」から「費用などで構成される損金」を引いた所得に対して税率を掛けて計算されるため、同じ売上であっても、より多くの費用を損金に算入することで法人税額を減らすことが可能です。
■法人税の計算のイメージ
法人税を節税するための対策にはさまざまな方法がありますが、ここでは、所得の減額につながる代表的な対策を確認していきます。下記の14の方法の中で、自社に実践できる方法があれば、試してみましょう。
<法人税の節税対策>
不良在庫を適切に処分することは、節税対策に役立ちます。不良在庫とは、売上につながる見込みがなく、単に倉庫などに保管されている状態の在庫のことです。不良在庫であっても、保管されている限りは法人が所有する資産として帳簿に載せなければなりませんが、不良在庫を処分すれば帳簿への記載が不要となり、処分費用を損金に算入できます。在庫品の原価より安く売却した場合には売却損を計上し、廃棄処分した場合には除却損を計上します。
赤字の繰り越しも有効な節税対策のひとつです。赤字の繰り越しとは、繰越欠損金制度を活用して翌事業年度以降の課税所得から前期までの赤字分の金額を差し引くことを指します。法人税は、課税所得をもとに算出されることから、赤字を繰り越すことで翌事業年度以降の節税につながる仕組みです。法人の場合、最大10年まで赤字を繰り越せます。
なお、条件を満たせば欠損金の繰り戻しによる還付を受けられる場合もあります。欠損金の繰り戻しによる還付とは、赤字になった事業年度に、前年度の黒字と当該年度の赤字を相殺して前年度の法人税を計算し直し、支払った法人税との差額の還付を受けられる制度のことです。赤字の繰り越しや繰り戻しの活用は、節税のための基本的な対策といえます。
未払費用を漏れなく計上することも、節税のための対策です。未払費用とは、事業年度内に発生した費用のうち、実際の支払いが来期以降になる費用のことです。例としては、当月分翌月払いのリース料、通信費、従業員に支払う給与などが挙げられます。
未払費用を今期の支出として計上することにより、所得を減らすことにつながります。機器のリース料などの支出が占める割合が大きい事業などでは、未払費用を計上することにより、効果的に節税できるかもしれません。
法人名義で賃貸物件を賃借し、役員や従業員の社宅として活用することも節税につながります。企業が支払った家賃と入居者が支払った家賃負担額の差額分が企業の損金となるため、所得を減らすことが可能です。家賃は毎月発生することから、いわゆる借り上げ社宅制度を導入することにより効果的に節税できます。
注意点として、役員や従業員から受け取る家賃負担額を、極端に低い金額に設定するのは避けましょう。国税庁が定める賃料相当額の50%を下回ると、従業員に自宅を現物支給したとみなされて、従業員には給与としての課税が発生し、企業も法人税の損金算入もできなくなる可能性があります。
役員報酬を増やすことも、節税対策のひとつの方法です。役員報酬は、下記の種類ごとに定められている要件を満たせば、損金算入できます。
■役員報酬の種類
名称 | 内容 |
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定期同額給与 | 一定期間ごと(1ヵ月以下)ごとに同額で支払われる役員報酬 |
事前確定届出給与 | 既定の金額を指定日に支払うことを届け出た役員報酬 |
業績連動給与 | 企業の業績を表す指標などに応じて支払われる役員報酬 |
ただし、業績連動給与以外の場合、役員報酬の金額を一度決定すると、原則として1年間は変更できません。役員報酬を増加させる際には、企業のキャッシュフローに影響を与えない範囲内で金額を設定する必要があります。
また、役員報酬が増えることにより役員個人が支払う所得税が増加する点にも注意が必要です。所得税と法人税を合わせた税負担を考慮した上で、適正な金額を検討しましょう。
社用車の取得金額は、減価償却費として損金に算入できるため、法人税の節税につながります。また、社用車にかかるガソリン代や自動車保険料、車検費用、駐車場代なども損金に算入できます。なお、社用車の取得方法によって、費用を計上する方法は異なるため、注意が必要です。
■社用車の取得方法ごとの費用計上方法
取得方法 | 費用を計上する方法 |
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新車を現金で購入した場合 | 普通自動車は6年、軽自動車は4年を耐用年数として減価償却 |
中古車を現金で購入した場合 | 耐用年数を下記の計算式で算出の上、車両運搬具として費用計上
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カーローンを利用した場合 | 車両運搬具として費用計上し、法定耐用年数に応じて減価償却 |
カーリースを利用した場合 | リース料として費用計上 |
取引先との飲食にかかった費用や交際費を損金算入することで、課税所得を減らして節税につなげる方法もあります。ただし、損金算入できる接待交際費には下記のような上限がある点に、注意しなければなりません。
■接待交際費の損金算入できる上限額
企業の種類 | 損金算入できる上限額 |
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資本金1億円以下の企業 | 800万円または接待飲食費の50% |
資本金1億円超の企業 | 接待飲食費の50% |
資本金100億円超の企業 | 全額不算入(経費として認められない) |
なお、接待交際費という名目であれば、どのような費用も損金に算入できるわけではありません。接待交際費は、あくまでも取引を円滑に進めるための費用です。例えば、従業員だけが参加する社内イベントなどの費用は接待交際費として認められません。
健康診断を福利厚生制度に組み込み、福利厚生費として計上するのも、法人税の節税につながるひとつの方法です。ただし、健康診断の対象者が従業員全員であることや、費用を企業から医療機関に直接支払うことなど、福利厚生費として計上するための条件を満たしている必要があります。また、オプション検査に該当するものは企業の負担にはできないため、従業員に自己負担してもらうのが原則です。
福利厚生の一環として社員旅行を実施して、福利厚生費に計上する節税方法もあります。注意点として、福利厚生費として認められる範囲が決められているため、下記の条件を満たすことが必要です。
<社員旅行費を福利厚生費にするための条件>
なお、研修旅行や社員合宿については、企業の業務に直接必要な場合は旅費交通費として処理するものの、業務に直接関わりがない場合は給与として処理しなければなりません。そのため、後者のケースでは、源泉徴収する必要があります。また、役員や従業員の家族にも参加を認める場合は、家族分の費用は福利厚生費にはできません。
出張旅費規程を整備し、出張時に旅費日当を支給するのも、法人税を節税するためのひとつの方法です。旅費日当を法人税の損金に算入するためには、役員・従業員の旅費規程を設け、規程にもとづいて適正に日当を支払う必要があります。出張の機会が多い企業では特に、年間を通じてまとまった費用を経費として計上できるようになります。また、旅費日当を受け取る役員・従業員側は、日当分については所得税が課税されません。
ただし、旅費日当は一般的に妥当と思われる範囲内で金額を設定しなければならず、不自然に高い旅費日当を設定すると、不自然に高い部分の損金算入が否認され、給与として所得税が課税される可能性があります。
中小企業では、30万円未満の消耗品を購入すれば、費用を全額損金として計上できるため、法人税の節税につながります。これは「中小企業等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」に定められているルールです。この特例を適用するには、下記の条件を満たしている必要があります。
<少額減価償却資産の特例の対象となる範囲>
なお、適用除外事業者とは、過去3年間の各事業年度において、平均所得金額が15億円を超える法人などのことです。これらの条件に該当する企業は、30万円未満の消耗品を購入した際に少額減価償却資産として経理処理を行いましょう。
業績が好調で資金に余裕があるようなら、従業員に決算賞与を支給すると法人税の節税につながります。決算賞与の支給は従業員のモチベーションアップに寄与するほか、業績好調であることを示す要素にもなるため、人材募集にも良い影響をもたらす可能性のある施策です。ただし、節税対策として決算賞与を活用するには、下記の条件を満たしている必要があります。
<決算賞与を費用として計上する際の条件>
これらの条件を満たしていれば、決算の時点で決算賞与を支給していなくても、当期の費用として計上できます。決算を締める間際でも選択可能な節税対策のため、業績が良い時期には支給を検討してみてはいかがでしょうか。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)に加入しておくことも、法人税の節税対策の一環として有効です。経営セーフティ共済の掛金は全額損金に算入できます。掛金として拠出できるのは、月額5,000~20万円の範囲で、最大800万円まで積立が可能です。
経営セーフティ共済とは、取引先の倒産に伴う経営難や連鎖倒産を防ぐことを目的とした制度のことです。加入企業は無担保・無保証人で掛金の10倍・最大8,000万円まで借り入れができます。取引先の倒産に伴い、売掛金の回収が困難になった場合などの資金繰りに役立ちます。節税効果を得るためだけではなく、事業の持続可能性を高めるためにも、加入を検討するのがおすすめです。
短期前払費用の特例を活用することも、法人税の節税に効果的な対策のひとつといえます。短期前払費用の特例とは、年払い契約をして費用を前払いすることにより、来期分の経費を今期分の経費として計上することを認める特例のことです。例えば、事務所家賃を年払いに変更したり、保険料やリース料を年払いに切り替えたりすることにより、当期分の所得を効果的に減らせます。
ただし、年払いは継続適用する必要があるため、節税効果を得られるのは初年度のみです。また、収益の計上と対応する費用については、短期前払費用の特例が適用されない点に注意する必要があります。
法人が節税対策を講じる際に、注意しておきたいポイントがあります。節税対策によるメリット面だけでなく、下記のようなデメリット面についても意識して、節税対策を実施するか検討しましょう。
節税対策の中には、費用の支出を伴う対策も少なくないため、資金不足に陥る可能性がある点には注意してください。節税効果が得られたとしても、肝心の事業資金が不足するようでは本末転倒と言わざるを得ません。資金不足のリスクを回避するには、キャッシュフローを把握して、資金計画を立て、節税対策を慎重に進める必要があります。
企業の利益を圧縮することは、節税対策につながる一方で、金融機関からは利益が減少していて業績がかんばしくない企業と判断されかねない点にも注意が必要です。金融機関からの評価が下がり、必要なタイミングで融資が受けられなかったり、不利な条件での融資しか選択肢がなくなってしまったりする可能性もゼロではありません。企業の利益を圧縮する節税対策では、対外的な評価も意識することが重要です。
節税対策を適切な方法で行うことにより、法人税を効果的に抑えられます。一方で、ルールに沿って適切に行わなければ脱税となるおそれもあるため、注意しなければなりません。節税対策の条件を慎重に確認しながら、自社にとって適した対策を検討・実行していきましょう。
法人税の適切な申告には、ツールの活用をおすすめします。法人税と地方税の申告書を素早く正確に作成できる「法人税の達人」は、各種法人のさまざまな申告形態に対応しているツールです。
青色申告はもちろんのこと、中間申告や修正申告・予定申告・見込納付・四半期資産にも対応しています。分割法人の事業所は最大9,999ヵ所まで登録でき、直接入力のほかCSVファイルによる一括入力も可能です。
また、法人税の計算と同時に法人地方税の計算が行われ、算出された税額は自動的に「納税額一覧表」に集計されます。納税額を一元把握できるため、節税対策の効果を判断したい場合にも有効です。
法人税の申告をスムーズに進めつつ、節税対策も効果的に講じていきたい事業者様は、ぜひ「法人税の達人」をご活用ください。
監修者
石割由紀人(石割公認会計士事務所)
公認会計士・税理士、資本政策コンサルタント。PwC監査法人・税理士法人にて監査、株式上場支援、税務業務に従事し、外資系通信スタートアップのCFOや、大手ベンチャーキャピタル、上場会社役員などを経て、スタートアップ支援に特化した「Gemstone税理士法人」を設立し、運営している。