商品の販売やサービスの提供など、国内で行われるさまざまな取引には消費税がかかります。消費税は消費者が負担する税金ですが、実際に納付するのは「課税事業者」です。課税事業者は、原則として年に1度、消費税の申告と納付を行わなければなりません。
消費税の確定申告は、所得税や法人税の確定申告とは手続きや計算方法が異なります。ここでは、消費税の確定申告が必要になる事業者の条件や、消費税の確定申告をする上で知っておきたい納付額の計算方法などについて解説します。
目次
消費税の確定申告とは、事業者が納めるべき消費税を計算して税務署に申告・納付する手続きのことです。消費税は、税金を負担する方と納める方が違う「間接税」です。
消費者は、商品やサービスを購入するときに10%(飲食料品などは8%)の消費税を支払いますが、消費者みずからが消費税を申告・納付するわけではありません。消費税の確定申告を行い、税金を納めるのは、消費者から消費税を受け取った事業者です。
消費税の申告・納付義務のある事業者のことを、課税事業者といいます。法人も個人事業主も、課税事業者は原則として事業年度に1度、消費税の確定申告を行わなければなりません。
消費者の確定申告を行う必要があるのは、事業者のうち課税事業者です。それに対して、消費税の確定申告義務が免除される事業者のことを免税事業者といいます。
課税事業者となるのは、下記の「基準期間」または「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超えた場合などです。法人と個人事業主では、基準期間や特定期間が異なるため注意しましょう。
<法人の場合>
<個人事業主の場合>
例えば、個人事業主であれば、2年前の1月1日~12月31日(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になり、消費税の確定申告が必要です。そのほか、資本金または出資金が1,000万円以上の法人を設立した場合や、特定新規設立法人に該当する場合は、売上高を問わず設立1期目から課税事業者となります。
なお、基準期間または特定期間の課税売上高が1,000万円以下でも、税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、免税事業者から課税事業者になることができます。
ただし、2023年10月から始まったインボイス制度に伴い、適格請求書発行事業者の登録を受けるために課税事業者になる場合、2029年9月30日までの期間を含む課税期間中に適格請求書発行事業者の登録申請を行えば、消費税課税事業者選択届出書を提出しなくても課税事業者の登録を受けることが可能です。
消費税の確定申告をする際には、納めるべき消費税額を計算しなければなりません。基本的に、消費税の納税額は、売上にかかる消費税から、仕入れにかかった消費税を差し引いて計算します。
この消費税の計算方法には、大きく分けて「一般課税(本則課税)」と「簡易課税」の2種類があります。また、インボイス制度に伴って免税事業者から課税事業者になった場合は、要件を満たせば「2割特例」と呼ばれる計算方法を適用することも可能です。
それぞれの計算方法について、詳しく見ていきましょう。
一般課税による計算方法は、後述する簡易課税制度の適用を受けている事業者を除く、すべての課税事業者が選択可能です。
一般課税では、課税売上高にかかる消費税額から、仕入れや経費で支払った消費税額を差し引いて、納税額を計算します。計算式にすると、下記のようになります。
<一般課税による消費税額の計算式>
消費税額=課税売上高にかかる消費税額-仕入れなどにかかる消費税額
課税売上高にかかる消費税額と、仕入れなどにかかる消費税額は、それぞれ10%と8%(軽減税率)の税率ごとに区分して計算する必要があります。
なお、一般課税の計算方法において、仕入れや経費にかかった消費税額を差し引くことを、仕入税額控除といいます。インボイス制度の導入により、仕入税額控除を適用するには、原則として仕入先が発行したインボイス(適格請求書)が必要です。
簡易課税とは、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を使って消費税額を計算する方法です。一般課税のように、売上と仕入れにかかる消費税を税率ごとに区分して計算する必要がないため、手間がかかりません。
ただし、簡易課税を選択できるのは、基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の課税事業者に限られます。また、簡易課税の適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、税務署へ「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しておかなければなりません。
簡易課税による計算では、課税売上高にかかる消費税額に、事業区分に応じた一定のみなし仕入率を掛け、その金額を仕入れなどにかかる消費税額とみなします。計算式にすると、下記のとおりです。
<簡易課税による消費税額の計算式>
消費税額=課税売上高にかかる消費税額-(課税売上高にかかる消費税額×みなし仕入率)
業種ごとのみなし仕入率は、下記のように定められています。
■簡易課税の事業区分とみなし仕入率
事業区分 | みなし仕入率 | 該当する事業 |
---|---|---|
第1種事業 | 90% | 卸売業(ほかの者から購入した商品をその性質、形状を変更しないでほかの事業者に対して販売する事業) |
第2種事業 | 80% | 小売業(ほかの者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第1種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡にかかる事業) |
第3種事業 | 70% |
農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡にかかる事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業
|
第4種事業 | 60% |
第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業(具体的には、飲食店業など)
|
第5種事業 | 50% |
運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除く)
|
第6種事業 | 40% | 不動産業 |
簡易課税方式を採用する場合は、仕入先からインボイス(適格請求書)の交付がなくても問題ありません。一方で、一定のみなし仕入率で計算するため、実際には売上にかかる消費税より仕入れにかかった消費税のほうが多かったとしても、消費税の還付はありません。
簡易課税方式を選択した事業者は、基本的に2年間は一般課税の計算方法に戻すことができないため注意が必要です。
2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者(適格請求書発行事業者)になった場合のみ選択できる、消費税の計算方法です。
2割特例とは、課税売上高にかかる消費税額の80%を、仕入れ等にかかる消費税額とみなす計算方法です。納税額が課税売上高にかかる消費税の2割で済むため、2割特例と呼ばれています。
<2割特例による消費税額の計算式>
消費税額=課税売上高にかかる消費税額-(課税売上高にかかる消費税額×80%)
2割特例を適用できる期間は、2023年10月1日~2026年9月30日の期間を含む課税期間に限られます。事前の申請は不要で、消費税の確定申告をする際に、申告書に2割特例を適用する旨を記載するだけで構いません。
ただし、基準期間または特例期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、2割特例を適用することができないため注意が必要です。
消費税の会計処理方法には、「税抜経理方式」と「税込経理方式」の2種類があります。免税事業者は税込経理方式しか採用できませんが、課税事業者はどちらか任意の方式を選択できます。
会計処理方法の選択にあたって税務署への届出などは不要ですが、原則として、すべての取引につき同一の経理方式を適用しなければなりません。また、どちらの方式を選んでも、最終的に納付する消費税額は同じです。ここでは、消費税の2種類の会計処理方法について解説していきましょう。
税抜経理方式は、売上や仕入れの本体価格と消費税額を区分して処理する方法です。税抜経理方式では、課税売上にかかる消費税は「仮受消費税等」、課税仕入れにかかる消費税は「仮払消費税等」として処理します。そして、決算時に仮受消費税等と仮払消費税等を相殺し、納付する消費税額を「仮払消費税等」として仕訳計上します。
税抜経理方式は、本体価格と消費税を分けた状態で管理できるので、期中でも納税額の見通しが立てやすくなります。ただし、取引のたびに消費税を区分して仕訳しなければいけないため、後述する税込経理方式に比べて処理が煩雑になります。
税込経理方式は、消費税を売上や仕入れの金額に含めて処理する方法です。税込経理方式では、課税売上にかかる消費税は売上金額に、課税仕入れにかかる消費税は仕入金額に含めて計上します。そして、決算時に、消費税の納付額を「租税公課」として、経費または損金計上します。
税込経理方式は、取引ごとに消費税を計算する必要がないので、会計処理の手間が軽減されます。一方、決算期になるまで消費税の納付額を把握しづらいというデメリットがあります。
課税事業者は、定められた期限までに税務署に必要書類を提出し、消費税の確定申告を行わなければなりません。消費税の確定申告に必要な書類は、国税庁のウェブサイトや確定申告書等作成コーナー、税務署窓口で入手できます。
提出する書類は、一般課税と簡易課税のどちらの計算方法を選ぶかによって変わります。確定申告書は、それぞれ法人用と個人事業者用があるので間違えないようにしましょう。また、場合によっては、付表や計算表といった添付書類が必要になることがあります。主な必要書類は、下記のとおりです。
<一般課税で確定申告を行う場合に必要な書類>
<簡易課税で確定申告を行う場合に必要な書類>
2割特例を適用する場合は、確定申告書の第一表の「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」に◯をつけ、「付表6 税率別消費税額計算表」と併せて提出します。
このとき、簡易課税制度を選択しているなら簡易課税用、していない場合は一般用の申告書を使用しましょう。
2023年10月1日からのインボイス制度導入により、課税事業者が仕入税額控除を適用するには、原則として、仕入先から発行されたインボイス(適格請求書)の保存が必要になりました。インボイスとは、売り手が買い手に正確な消費税率と税額を伝えるためのもので、登録番号や適用税率、税率ごとに区分した消費税額など、記載すべき項目が定められています。
インボイスを発行できるのは、登録を受けた適格請求書発行事業者だけです。適格請求書発行事業者になるには課税事業者であることが前提となるため、インボイス制度開始に伴い、免税事業者から課税事業者になったケースは少なくありません。
免税事業者から課税事業者になると、消費税の確定申告を行う義務が生じます。消費税の申告を正しく行うには、仕入税額控除が適用できる取引とそうではない取引を分けて管理し、納めるべき税額をきちんと計算しなければなりません。消費税の計算方法は、一般課税と簡易課税のうちどちらかを選択し、さらに2割特例を適用できるかどうかによって、消費税の計算方法や、確定申告での提出書類が変わります。
なお、消費税の確定申告の期限は、法人は事業年度終了の日の翌日から2ヵ月以内、個人事業主は対象となる課税期間(事業年度)の翌年3月31日まで。消費税の申告期限と納付期限は同じです。期限が土・日・祝日にあたる場合は、翌平日が申告期限となります。
消費税の確定申告手続きは、税務署窓口への提出、税務署への郵送、e-Taxの3つの方法で行うことが可能です。所得税の確定申告期限とも重なる期間のため、期限内に申告を済ませられるように、早めの準備を行いましょう。
インボイス制度については、下記の記事をご覧ください。
インボイス制度の申請手続きと消費税申告への影響
消費税の確定申告は計算が複雑な上、用意する書類にも注意しなければならず、手作業で行おうとするととても大変です。煩雑な消費税の申告手続きを正しく行うには、消費税の確定申告に対応したツールの活用がおすすめです。
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さまざまな会計ソフトと連動して申告書を作成することもできるので、事務作業の手間が大幅に軽減されるでしょう。ミスなくスムーズな消費税の確定申告を目指すなら、ぜひ「消費税の達人」をご活用ください。
監修者
石割由紀人(石割公認会計士事務所)
公認会計士・税理士、資本政策コンサルタント。PwC監査法人・税理士法人にて監査、株式上場支援、税務業務に従事し、外資系通信スタートアップのCFOや、大手ベンチャーキャピタル、上場会社役員などを経て、スタートアップ支援に特化した「Gemstone税理士法人」を設立し、運営している。